問題は不動産や消費だけではない。急速な少子高齢化、2割に達する若者の失業率の高さなど複合的な問題が中国経済の足を引っ張る悪循環を招きつつある。7月以降、中国政府は失業率の統計発表を見合わせるなど、ネガティブな公式統計を次々に消しにかかった。市場は「それほど悪いのか」と疑心暗鬼になり、さらなる不安を生むだけである。
「生かさず殺さず」
中国政府は、恒大などの不動産開発会社に対し、公的資金を注ぎ込んでの救済は考えていないとされる。彼らは江沢民や胡錦濤の時代に成長した企業で、習近平にとっていわば政敵の子分たちだ。しかも恒大だけで50兆円の負債。救えるはずもない。かといって簡単に潰すこともできない。米国への破産法適用申請も、うるさい外国人投資家向けにドル建て債務の処理に動くことを見せるだけで、寿命の先延ばしにすぎないとの見方が支配的だ。国営金融機関には繋ぎ融資や支払い猶予を認めさせながら、「生かさず殺さず」の傍観を決め込むと思われ、恒大など不動産開発会社はゾンビ化していく可能性がある。
日本や世界への影響は読みにくい。この不動産問題で中国経済が短期的にクラッシュすることはないだろう。だが、中国経済に多かれ少なかれ依存を強めている我々が、中国の病に影響を受けることは避け難い。世界は当面、中国発の世界不況に怯える日が続くだろう。
解決策はただ一つ。中国が「経済安全」を優先する政策に立ち返ることだが、習近平が失敗を認めることになる。無謬性を原則とする中国で、ほぼ無期限の任期を獲得した習近平にとって、その決断はまずあり得ない。
完成しない我が家を虚しく見守る人民の涙が止まることはない。(ジャーナリスト・野嶋剛)
※AERA 2023年9月4日号より抜粋