※写真はイメージです(Getty Images)
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 出世競争や家庭問題など、さまよう中年たち。そんな彼らのなかには母親を唯一無二の存在として再認識する人もいる。中年になってからマザコン化するのだ。「そうした男たちは母親から操られている」と話すのは、長年、男性の生きづらさを取材している近畿大学教授でジャーナリストの奥田祥子氏だ。そんなマザコン中年の末路とは。奥田氏の新著『シン・男がつらいよ 右肩下がりの時代の男性受難』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、紹介する。

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 2006年、愛知県内で開かれた、独身男性が結婚するための能力を磨く講座で、講師の話に大きく頷きながら懸命にメモを取る男性がいた。IT企業でシステム・エンジニア(SE)を務める当時、32歳の高井祐太さん(仮名)だった。

 1日の単発講座で昼休みを挟んで6時間にも及び、女性との会話術から、外見を改善するための服装選び、笑顔など豊かな表情の作り方、女性を心地よくさせるデートでの振る舞いまで、さまざまなメニューが用意されていた。終了後、高井さんに個別に取材を申し込むと、その場で1、2分考え込んだ後、ためらいがちに「僕なんかでいいなら」と承諾してくれた。

 喫茶店の2人席で向き合うと、なかなか視線を合わせようとしない。結婚したいのにできない男性が増えている現状などを説明すると、こちらが質問するより先にぽつりぽつりと話し始めた。

「……専門学校でも、今の職場でも、あのー、男性ばかりでして……そのー、女性と話すことに慣れていないもんですから……。それで、まあ、思い切って……女性と付き合って、結婚するための方法を教えてもらおうと、思ったんです……」

「では、コミュニケーションを取れる女性という(と)」

「母親です」質問を語尾まで聞かずに答えた高井さんの表情がそれまでと打って変わり、生き生きとしていたのをはっきりと覚えている。

 ─なぜ結婚したいのか?

「母親を安心させたいから」

 ─どんな女性が理想か?

「母親のように、優しくて思いやりがあって、しっかりした女性です」

 結婚に関する質問の答えのほとんどに、母親の存在が影響していた。

 幼い頃に両親が離婚し、母親と2人で暮らしてきたことから、母親への愛情がなおのこと深いことがうかがえた。男性は程度に差はあっても、多くが母親に対して強い愛着を持っているものだ。ただ、この時の高井さんには、単に「マザコン」と片付けてしまうことのできない、複雑な思いがあるように思えてならなかった。

「母親には逆らえない」

 結婚するため、女性との交際術を学んでも、実際に女性と出会い、交流する機会がないと、生かすことができない。ましてや女性と一度も付き合ったことのない高井さんにとって、交際にたどり着くのは至難の業だった。

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