『自分のやる気が上がるのは、どっち?』田中伸明 クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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 私たちの長い人生の中で、「やる気が出ない」状況というのは往々にして訪れるものです。東京屈指のオフィス街・神田で心療内科のベスリクリニックを開業している田中伸明さんのもとにも、「仕事に対して、やる気が起こらない」「会社に行くのがツラい」といった相談が非常に多く寄せられるそうです。

 脳神経内科医としてこうした人々のメンタルケアに日々取り組む田中さんが伝えたいのは「やる気を起こすための具体的な方法論を知ることが、改善のための一番の近道」ということ。具体的には、やる気を上げてそれを持続させるための「脳が喜ぶ状態」をつくり出すことが大切なのだそうです。田中さんの著書『自分のやる気が上がるのは、どっち?』では、脳が幸福感や心地よさを感じることで自然とやる気が高まる38のコツが紹介されています。

  同書では、やる気が上がる行動を2つの選択肢で問いかけ、脳科学の観点から「どちらが正しいか」を解説。たとえば第1章「やる気が上がる『目標の立て方』はどっち?」の最初に出てくるのが、「『高い目標』と『低い目標』、やる気が上がるのはどっち?」という質問です。

 キャリアの浅い人や成功体験の乏しい人にとっては、高い目標や厳しいノルマは「達成できない」未来を予測してしまうため、やる気が下がるそうです。一方、成功体験が豊富な人は「自分はできる」という期待値が高いため、高い目標に対してやる気が上がるそうです。一人ひとりの能力や経験によって異なるため、いかに目標を正しく設定するかが大事になってきます。田中さんによると、「やってみないとわからないけれど、おそらくうまくいきそう」な目標を立てることが、一番やる気につながると言います。

 このほか、第2章ではやる気が上がる「口ぐせ」、第3章ではやる気が上がる「仕事の習慣」、第4章ではやる気が上がる「上司」について紹介。すべて2択の質問形式になっているので、読者自身で考えながら読み進めることができます。

 さらに第5章ではやる気が上がる「朝の過ごし方」について、第6章ではやる気が上がる「体調管理」について取り上げています。ここで興味深いのが、近年、幸福感や満足感、抑うつの気分といった感情は、身体の中でも特に消化器などの「内臓の状態」が深く関係していることがわかってきたというものです。仕事に行く前や休日の過ごし方を変えたり、腸内環境を整えたりすることでやる気が高められることもあるといいます。具体的な方法も書かれていますので、やる気が出ないと悩んでいる方にはぜひ試してみていただきたいです。

 そして、田中さんが「おわりに」で記しているのが、「実はやる気が上がる方法はどっちでもいい」ということ。AでもBでもやらないことには結果が出ないのだから、どっちでもいいからやってみましょうと呼びかけます。どちらかを選択して行動し、もしその結果が悪かったとしても、次は別の選択肢をやってみようという判断材料ができます。

「大事なのは、あなたがあなたの行動によって判断材料を得ることであり、それがうまくいかない現状を打破する唯一にして、最大の方法でもあると思うのです」(同書より)

 むやみに気合いや根性を入れたところでやる気が上がるものではないことは、自身の体験から皆さんもよくご存じのはず。同書で「科学的に正しいやる気の上げ方」を習得してみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]