国立がん研究センターの予防関連プロジェクト「JPHCスタディ」の報告によると、中年期以降の「便秘」は、認知症リスクにつながるようだ。
本調査は2006年、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸市、高知県中央東福祉の五つの保健所管内に住む50~79歳の男女に、排便習慣に関するアンケートを実施。その後16年までを追跡し、認知症発症リスクとの関係を調べたもの。
追跡期間中、アンケート調査に回答した男性1万9396人中の1889人(9.7%)が、女性では2万2859人中の2685人(11.7%)が認知症と診断された。
排便回数で発症リスクを区分けしてみると、毎日排便する人のリスクを1とした場合、週に3回未満の男性の発症リスクは1.8倍、女性では1.3倍と有意に高く、排便回数が少ないほど認知症リスクは高くなった。
特に、男性でその傾向が強く、週に3~4回では1.5倍、週に5~6回という、ありがちな排便回数でも1.4倍に上昇した。
さらに「便の硬さ」について「普通」と回答したグループとその他のタイプで比較すると、「硬い便」と回答した男性の認知症発症リスクはおよそ1.3倍、女性では同1.2倍、「特に硬い便」との回答では、男性がおよそ2.2倍、女性は同1.8倍と、便が硬いほど認知症リスクが上昇した。
ちなみに「下痢」との関連では、男女ともおよそ0.8倍に低下している。
便秘気味の人は腸のぜん動運動が鈍く、便の通過に時間がかかる。それには腸内細菌が産生する「短鎖脂肪酸」の減少が関与しているのだが、便秘が慢性化すると、抗炎症作用や抗酸化作用を発揮している短鎖脂肪酸がますます減少し、全身性の炎症を介して認知症リスクを押し上げると推測される。
短鎖脂肪酸を産む腸内細菌叢を増やすには、ビフィズス菌や酪酸菌入りのサプリメントを摂り、菌のエサとなる水溶性の食物繊維を含む海藻類や豆類、野菜・果物類を意識して摂ること。便通をバロメーターに“腸活”してみよう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)