立石俊樹(たていし・としき)/1993年12月、秋田県生まれ。2021年3月、ミュージカル「黒執事」で初主演。22年10月、ミュージカル「エリザベート」でルドルフ役。ミュージカル「浜村渚の計算ノート」は8~9月全国4都市で上演される(撮影/岡田晃奈)

 元消防士という異色の経歴だが、次世代ミュージカルスターとして注目されている。活躍は始まったばかりだ。AERA 2023年8月28日号から。

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 立石俊樹(29)の最新出演作は、「浜村渚の計算ノート」。数学なんか勉強して、何の意味がある? そんな中学生の疑問に応えて生まれた、ミステリー小説のミュージカル版だ。

 立石演じる武藤龍之介は、数学には疎いが刑事としての勘の鋭さは抜群という役どころ。数学をはじめとした理系の科目を学校教育から外すことになった日本で、それに反対するテロリスト集団のテロ予告に、武藤ら警察は数学が大好きな中学生・浜村渚(桑原愛佳)とタッグを組んで事件解決に挑む。数学オンチな武藤だが、立石自身は「数学は得意」。小学校から高校まで、大半のテストは100点だったという。

「ただ、得意と言いながら、脚本に出てきた『四色定理』や『モンティ・ホール問題』は知りませんでした。僕が想像していた数学よりもっと深いものでしたので、脚本を読んだ時は龍之介のような数学オンチになりそうだと思いました(笑)」

歌手の道しかない

 高校卒業後、東京消防庁で消防士として約2年働いたのちに芸能の道へ転身した。幼い頃から歌が大好きで、歌手に憧れたが、「僕の周りで歌手になった人もいなければ目指した人もいない。どう進めばいいかわかりませんでした」。結果、もう一つの憧れだった「消防士を目指した」のだという。

「『海猿』という映画を見て人命救助にすごく惹かれたんです。東京で世界を見たいという気持ちもあって、東京消防庁を受けることにしました」

 消防士という夢を叶えたが、大好きだったEXILEのライブを何度も見に行くうちに、再び歌手への思いが強く芽生えた。

「何回考え直しても、やっぱり僕には歌手の道しかないと。そう思い始めたらどんどん悔しい思いが出てきたんですね。この夢を諦(あきら)めたら多分、絶対後悔するのではないかと、歌手になることを決断しました」

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