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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性犯罪について。

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 ほぼ100%の女が痴漢にあっているのだとしたら、いったい男の何パーセントが痴漢なのだろう?

 そんな問いが頭から離れないときがあった。乱暴な疑問ではある。でも不思議だったのだ。

 この国では女が息を吸っているだけで性被害を受ける。都心で通学・通勤する女性ならほぼ100%痴漢被害にあってきた。空いている車内だって、隣にぴたりと座られたり、膝などを「故意ではない」フリで触られたりする被害など当たり前にある。路上で性器を見せられたり、性的な言葉を投げられたり、通りすがりに胸を揉まれたり……ありとあらゆる性被害を受けている。だいたい「男性からの性被害に一度もあったことがない」と言い切る女性に私は会ったことがないのだが……。となると、「性加害をしたことがない」と言い切れる男性はどのくらいいるのだろう、という疑問がどうしたって生まれてしまうではないか。

 そんな疑問を口にした私に、以前、「性加害者は常習犯だから、一人で何百人、下手すると何千人も加害しているんだよ」と言う人がいた。いくらなんでも一生涯で、数百人単位で加害などできないでしょう?と信じられない思いでいたのだが、もしかしたら、「性加害者」とは本当にそういう人なのかもしれない。たとえばジャニー喜多川氏の性加害報道を受け、「これは史上最悪の性加害」という言い方を私はしてきたが、そもそも “特別に悪質な性加害者”などいなく、それこそが性加害者のリアル、と考えた方が性暴力の実態に近いのかもしれない。性被害者が声をあげられない社会であればなおのこと、加害者はたいした罪の意識をもつことなく「向こうから誘ってきた」「お金を渡したから合意だった」「プレイだった」などと現実をすりかえ、新しい“ターゲット”を見つけては加害を繰り返し続けられる。なにより性加害者の行動について、大規模な公的調査が行われたことなどもなく、性加害者の実態を私たちはあまりにも知らないのだ。

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