京セラとKDDIを立ち上げ、日本航空(JAL)の経営再建にも尽力した稲盛和夫さんが90歳で亡くなって、8月24日で1年になる。
日本を代表する企業の経営に注力するかたわら、1983年にはボランティアで中小企業経営者に経営のあり方を教える「盛和塾」を設立。全世界の塾生は1万人を優に超えた。84年には「稲盛財団」を設立。科学・芸術分野で活躍した人を顕彰する「京都賞」を設け、文化芸術振興にも力を注いだ。
経営者のみならず、異分野にも稲盛さんの生き方や思想、その経営哲学に共鳴する人は多い。WBCで日本を14年ぶり3度目の世界一に導いた前日本代表監督の栗山英樹さん(62)もそのひとりだ。
栗山さんは近著『栗山ノート2 世界一への軌跡』(光文社)のなかで、侍ジャパンの監督を引き受け、監督としての新たなスタイルを模索するなかで、稲盛さんの言葉に影響を受けたことを明かしている。
《沈思黙考しているうちに、京セラの創始者にして日本航空の再建に尽力した稲盛和夫さんの「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」の言葉が、頭のなかで輪郭を帯びていきました》
《相手にとって何が正しいのかを真剣に見極めて、必要なら厳しく接する。表面的な愛情は相手のためにならず、非情に徹することが相手の成長につながると、稲盛さんは教えてくれました》
史上まれにみる熱戦を制して侍ジャパンを頂点に導いた名将の心にも、そのスピリットは深く刻まれていた。稀代の経営者が遺した言葉が今なお人々の心をとらえるのは、なぜなのか。経済アナリストの馬渕磨理子さん(39)は、経営者たちと交流する中で、その人気を実感するという。