近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師

「ちょうどよいストレス」はアンチエイジングにおいて大事なことだと、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は言います。では、肌にとって「ちょうどよいストレス」とはどんなものでしょうか? 大塚医師が最新事情を解説します。

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 ストレスという言葉にはネガティブな印象が備わっています。ストレスのある生活はだれでも嫌なものですし、ストレスが原因で肌に不調をきたすこともあります。しかし、一方で「ちょうどよいストレス」はアンチエイジングの観点からは大事な刺激です。それはホルミシスという概念で説明されます。

 ホルミシスとは、ごくわずかの量が体に良い作用をもたらす現象を指します。一般的に、大量の物質や環境のストレスが体に悪影響を及ぼす一方で、適切な量や程度のストレスは、逆に身体の防御機構を刺激し、健康や免疫力の向上に寄与することがあります。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 一般に広く知られているものに、「放射線ホルミシス」という仮説があります。これは、低線量の放射線が生物の免疫機能を促進し、抗酸化作用を発揮するという概念です。一部の病院では低線量の放射線を利用した「ホルミシス治療」が行われていますが、まだまだ解明できない部分が多く、効果も不明です。少なくとも科学的に証明されている標準治療ではありません。

 ホルミシスに関する研究はいまだ発展途上ですが、さまざまな分野で活用されています。例えば、運動や断食も、身体への一時的なストレスとして働き、ホルミシスの効果を引き起こす可能性が指摘されています。

 以前、このコラムでも説明しましたが、サーチュインは長寿遺伝子として知られるたんぱく質で、老化の抑制や寿命の延長に関与しているとされています。

過去のコラムはこちら:「肌の老化」を抑えると期待の長寿遺伝子とサプリ成分とは 皮膚科医が解説 シワやたるみの改善の可能性も

 最近の研究では、ホルミシス的な刺激を与えることがサーチュインの活性化につながることが指摘されています。つまり、カロリー制限や断食はサーチュインの活性化を促す可能性があります。また、レスベラトロールという成分も、サーチュインの活性化に関与しているとされています。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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