深夜、山頂を目指す登山者のヘッドライトの列が伸びる。ただし、子連れでの深夜の行動は推奨されない(今シーズンの写真ではありません)/撮影 川口 穣

 大城医師は続ける。

「富士登山では五合目までバスで一気に標高を上げて歩き始めるので、身体が適応できずにより高山病を発症しやすくなります。子どもの高所リスクは完全にはわかっていませんが、大人以上に注意が必要です。2歳未満の子は標高2000メートルを超えないように、2歳から5歳までの子は日中登る高度は2500~3000メートルくらいまでを目安にし、山小屋などで眠る睡眠標高は2500mくらいまでに留めるのが望ましいでしょう。5歳を超えると一般に3000メートル程度まで適応できるようになりますが、それでも学童前半の子だと富士山の八合目(概ね3200~3300メートル)くらいまでで精一杯のケースが多いと感じます」

高所に適応できないと呼吸回数が増えて水分が失われ、脱水を併発しやすいほか、子どもは体温調整機能が未熟で低体温症にもなりやすい。高山病・脱水・低体温症を併発している子どもも珍しくないそう。

高山病・脱水・低体温症を併発している子どもも珍しくないという(写真はイメージです)/ photo gettyimages

 小学生低学年の子と富士山に登るならば初年度から山頂を目指すのではなく、「まずは3000メートルまで」「今度は八合目まで」と経験を踏みながらステップアップするのが望ましいという。

 また、多くの子が自分の体調や症状をうまく伝えられるようになるのは8歳以上とされる。「ぐずる」、いつもと比べて「元気がない」「食欲がない」「(山小屋などで)眠れない」などの高山病のサインにはいつも以上に気を配る必要がある。

「高山病予防にはゆっくり歩く、小まめに水分をとるなどのセオリーがありますが、子どもは元気だとどうしても一気に登ってしまいます。親がいくら気を付けていても完全に防ぐのは難しいでしょう。高山病は標高を下げれば治ります。子どもの様子に変化があれば、ためらわず下山してください」(大城医師)

 コロナ禍が明けた今年、富士山は久々の活況に沸いている。富士山の主要登山道のうち最も登山者数が多い山梨県側の吉田ルートでは、7月1日~30日までの登山者数が速報値で6万4千人となり、コロナ禍前の19年より17%増えた。静岡県側を含めた初速も、「過去10年で一、二を争う」(環境省)という。まもなく迎える山の日(8月11日)からお盆にかけては富士登山の最盛期だ。

続々と山頂に到着する登山者(今シーズンの写真ではありません)/撮影 川口穣

 親子登山を計画している人に、大城医師が何より伝えたい視点があるという。

「子どもが本当に登りたいと思っているのかを、ぜひ見極めてください。富士山で体調を崩す子のなかには、親の気持ちを汲んで無理をしてしまうケースが少なくありません。『親の思い出づくり』にならないように、安全と子どもの楽しさを両立した登山計画で挑戦してほしいと思います」

富士山のシルエットが地表に現れる「影富士」は富士登山の醍醐味のひとつ(今シーズンの写真ではありません)/撮影 川口 穣

(編集部・川口 穣)

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