元は花火の新作〈未知との遭遇〉は、白や赤などに明滅するLEDで宇宙船や鳥などを空中に描き出す(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 展示室の壁面では初期作から原初火球を経て、世界各地で手掛けた巨大プロジェクトを紹介。万里の長城を導火線の炎で1万メートル延長したことも、はしごの炎を上空に駆け上がらせたこともある。いわきの〈白天花火〉も別コーナーで見せている。

 蔡さんと私が出会った、91年の福岡のプロジェクトもある。操車場跡に導火線を敷き、炎を走らせ上空に浮かぶ凧にまで届かせるものだった。

 中国の作家による現代美術が珍しかった時代に、その並外れたスケールに度肝を抜かれた。同時に、蔡さんもこれ以後、海外での仕事が増えていった。

花火の表現をLEDに

 個展会場で原初火球の奥を占めるのが、巨大な光の空間造形〈未知との遭遇〉だ。赤や白に輝くLEDがネオンサインのように、アインシュタインの顔や宇宙船などを空間に描き出す。

 4年前にメキシコで実施した花火による表現をLEDに置き換えたものだ。「いま手がけている表現も見せたいし、火薬と全く違う素材を並べる面白さがある」と語る。LEDの骨組みは、蔡さんの指示でメキシコの花火職人たちが作ったもの。「素朴な造形こそ、人類の根源に近い」と指摘する。

 自身、「和紙と火薬を使ううちに上手になって技巧的になり、発見や破壊がなくなる。問題がないことが問題」と考えている。それゆえ、原初火球に加えた3点では、ガラスや鏡に火薬画を描くという挑戦をしている。

 さらに、蔡さんの思想や日記、写真、声までも学ばせたAIも開発。AIとの対話や、生成された画像を参考にした表現も展示した。「AIは火薬同様コントロールしにくく、不安感もある。一方で、自分のことを学ばせているので、自分を再発見する契機にもなっている」

 火薬を使う表現は、東洋人にはなじみやすいが、欧米では異国趣味で見られかねない。でも、「少年のような夢とロマンチックな想像力があれば、どこの国でも共鳴してもらえる」。

「65歳になったけれど、これからが楽しみ」と語る蔡さんが作り上げた大規模展示。その広場を、少年のままの心が走り回っている。(朝日新聞編集委員・大西若人)

AERA 2023年8月14-21日合併号