内田樹と白井聡が日本の戦後について忌憚なく語りあった『日本戦後史論』は、発売前に重版が決まったらしい。日本を代表する論客と『永続敗戦論』で戦後日本の核心に迫った気鋭の学者による対談とあれば、読者の期待が高まるのも無理はない。私もすぐに手にとり、二人の分析と持論に導かれながら戦後日本の基調についてあれこれ考えた。
それはまず、白井が前著で指摘した「敗戦の否認」について復習することからはじまった。
第二次大戦後の冷戦構造下、日本を自由主義陣営に留めたいアメリカの要請によって、かつて戦争の指導をしていた保守勢力が引きつづき権力を保持した。そのために戦後日本は〈敗戦という事実をできる限りあやふやに〉しながら、「対米従属を通じての対米自立」という実にトリッキーな外交戦略を基本としてきた。内田はこれを「のれん分け戦略」と呼び、〈利害の完璧な一致を誇示することによって、独立を獲得する〉日本人ならではの方法と分析する。大旦那のアメリカ、番頭の日本……。
沖縄をはじめとする国内の米軍基地問題、選挙前の公約では絶対ないと訴えていたTPP参加、積極的平和主義なるスローガンの下で進められる集団的自衛権の行使容認の関連法案……「戦後レジームからの脱却」を主張する安倍首相の政策や言動にも「日本の戦後の方法論」は色濃く表れている。
アメリカが設定した日本の戦後の枠から抜けだしたいと願いつつ、アメリカとの利害一致を算段する安倍首相。従属の姿勢を見せつつ自立の気運をうかがう彼の姿は、日本の戦後の歪みと願望を体現しているのかもしれない。彼が一部の人々から圧倒的な支持を得ているのもそのためではないかと、私はこの本を読みながら何度も思った。
戦後七十年の今年、“昭和の妖怪”岸信介を祖父にもつ安倍首相の大胆で危うい政治姿勢の背景を知って考える上でも、この本がもっと読まれることを期待したい。
※週刊朝日 2015年4月10日号