「聖地を巡る」と聞くと、神聖な空間をまわる敬虔な信徒の像が浮かぶだろうか。本書はそれとは異なる「観光的巡礼」というありかたが近年登場していることに着目し、現代社会と宗教とのつながりを考え直したものだ。
 歴史的に本物と受け止めづらい「キリストの墓」、伊勢神宮などに代表されるパワースポット──これらはいずれも観光地的な聖地として近年、注目を集めている。「嘘くさい」と切り捨ててしまえばそれまでだ。だが、著者は実際にキリストの墓がある青森県新郷村に足を運び、村の観光協会が主催するキリスト祭や、墓にある種のスピリチュアリティを認めて祈る客の存在を紹介し、見るべきはむしろ「宗教的な真正性が強く主張されない」点にあると強調する。こうした新たな巡礼地の魅力は、住民や観光客の主観やつながりのなかで「聖地」がつくられていく過程にあるのだ。
 著者はほかにも国内・国外各所の観光的巡礼地を歩いており、本書の間に挟まれるそこでのエピソードが面白い。単なる「解説」に終わらせず、身体を張って検証する姿に好感が持てる一冊だ。

週刊朝日 2015年4月10日号