マイナポイントで普及を進めようとする前に、まずはしっかりとした準備を進めるべきだったのではないでしょうか。順番が逆です。
政府がマイナンバーカードの普及を広めたいと考えているのは、国民の個人情報を集約して、行政の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を進めることが理由です。つまり、道路にたとえると、個人情報の高速道路を作りたい。
ノルウェーやスウェーデンなどでは、一枚のカードがあれば、納税や年金、各種行政手続きから就職や預貯金、保険といった、さまざまな手続きができるような環境を整えています。確かに、便利になるようです。
でも、こうした仕組みを作り上げるまでには、数十年単位の時間がかかりました。
これに対し、日本では政府がみんなの意見を聞かずに、ただただ、高速道路だけを作った。しかも、その道を強制的に「走れ」と命じるような姿勢です。政府の側にも、確かに、国民の暮らしを便利にしたいという思いはあるでしょう。
でも道路は穴だらけで、国民にとっては不安でたまらない。危ない高速道路なんて誰も走りたくありませんよ。
だったら、安全な一般道路も残しておいたほうがよいはずです。なぜすぐに一般道路まで壊そうとしているのでしょうか。
民間企業も、マイナンバーカードで集めた国民の個人情報をビッグデータとして使う。そういう背景があるから、政府が性急に事を運ぼうとしているのは、天下り先を作りたいからでは、といったうがった見方まで出てしまうわけです。
根本には、岸田政権の国民の声を聞かない姿勢があると思います。これはマイナンバーに限りません。異次元の少子化対策や防衛費増額など、ほかの政策にも言えます。
国民の意見をよく聞かずに、山のようにお金を使うプランを次々と出してきて、しかも卑怯なことに、財源の議論は後回しにする。最終的には、増税や社会保険料の引き上げといった形で私達が負担することになるのです。
今は物価高で、給料も十分に上がらない。どの家庭にも余裕はありません。岸田首相は、そういう状況にさらに追い打ちをかけるようなことを、しらっとした顔で行おうとしているのです。国民のことを考えているとは到底思えません。
(AERA.dot 編集部・池田正史)