Aさんのそんな気持ちなど、上司はお構いなしだった。

「さらにビッグモーター独自のシステムで傷つけた部分をスマホで撮影して、共有できるLINEのアプリで送信するのです。上司は『うん、これくらいがいい。もっとうまくやれるようになる』と変にほめてくれる。とんでもない会社だと思いました」

 一般的に、自動車事故が起きると保険会社が直後に車体をチェックして、加入者に電話で事情を聴くことになる。しかし、ビッグモーター関連になると、大手という信用もあってか見積書と写真を損保会社に送信するだけで傷などは認められ、保険金が支払われていたのではないかとAさんはいう。

「私が上司から聞いた話です。『最初は保険会社も厳しかったけど、ビッグモーターが急速に業績を伸ばすと書類通りOKとなるようになった』と。私は2、3カ所の工場に転勤になりました。どこでも似たようなことをやっていて、それが“日常”となってしまい、誰も悪いとは思っていない感じでした。そのうち、傷もなく、つけてもいないのに板金塗装をしていたのも見ました」

■年収3千万円超えの店長の実態は

 Aさんの話からは、常軌を逸した不正行為の様子や、理不尽なノルマの押し付けなどがうかがえる。

「店長がきて『足りないからやってくれ』と言ったことがありました。ようするに、もっと傷をつけて保険金請求をしないとノルマが達成されない、という意味でした。その店長は社内でも上位にランクされる高給取りで年収3千万円は超えていたはずです」

 報告書によると、同社では車両修理1件当たりの作業代金と、交換した部品の合計金額を「@(アット)」と呼び、これを上げることが至上命令だったという。

「とにかく数字ばかりみて、ノルマ達成に必死になっていたのを覚えています。あるとき工場の上司が『売り上げが低い!』とオンラインの会議でつるし上げられ、がっくりして戻ってくるのを見ました。私もそうでしたが、本社の幹部がLINEでいきなり『転勤だ』と送ってくる。『明日から異動先に行け』で終わり。こちらからの言い分は一切受け付けない。特定の幹部の独裁ですね」

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元店長「今もビッグモーターが怖い」