「知らないなんてあり得ない!」。中古車販売大手「ビッグモーター」(東京都港区)の兼重宏行社長らが開いた記者会見を見て、同社の元社員はそう怒りをにじませた。社長は自身の責任を認めたものの、一連の不正については「まったく知らなかった」として組織ぐるみとの指摘は否定したが、元社員に話を聞くと多くの整備工場で不正行為が組織的に常態化していた様子がうかがえる。
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「特別調査委員会の報告書を受けて、耳を疑った。こんなことまでやるのかと、がく然とした。現場に入ってよく見ておくべきだったなと。修理する人間が傷をつけて水増し請求する。ゴルフボールで傷つけて傷の範囲を広げる……」「一連の不正は工場長がやったのではないか」
兼重社長は会見で、長期間にわたる過大請求や不正を知ったのは「1カ月前」と話した。
これを聞いた、関東地方のビッグモーターの整備工場に勤めていた元社員のAさんは、
「社長が知らないなんてありえませんよ。トップに権限が集中していて、末端の社員のことまで把握していないと気がすまないような社長です。よくもこんなことが言えるなあ、とあきれました」
と話した。
ビッグモーターが公表した特別調査委員会の報告書によると、全国34の工場で約2700件の修理実績を調べたところ、約1200件で不適切な行為が行われた疑いがあった。
この調査結果についてもAさんは、こう話す。
「調査でわかっている不正はごく一部だと感じます」
■はじめてサンドペーパーで傷をつけた時に涙が
Aさんは高校卒業後、同社とは別の自動車工場で働き、自動車整備士の資格を持っていた。
あるとき、ビッグモーターで働いていた知人から、同社は「高給だ」と聞いて転職。整備工場で働くようになった。
「勤務から4、5日くらいして、工場の上司から『Aさん、ちょっと』と呼ばれました。上司はスマートフォンを出してLINEのアプリを私に見せました。そこには10秒くらいの動画があって、『渡せないけど、こうやって修理を大きくして“保険”が増えるように』と指示されました」