一見すると、藤巻が鳴らした警鐘は杞憂に終わったようにも見える。だが、そう単純には言えない。安心するには早すぎるだろう。ある政府関係者はのちに、私にこう打ち明けた。

「為替介入での海外ファンド勢との攻防は、本当に薄氷の戦いだった」

 海外ファンドによって巨額の円売りを仕掛けられたのは、ある意味で当然だ。藤巻がとった思考法は、市場参加者であればほぼ同じようにとるからだ。市場は完全にその流れに乗りどこまで円安を進められるか、当局を試しているようなところがあった。

 政府・日銀はその売り圧力に対して、市場の予想を上回るほどの大規模な介入をした。市場の微妙な風向きの変化にうまく乗り、そのサプライズによってなんとかこの場をしのいだ。

 だが先ほどの政府関係者は言う。「一つ間違えれば1ドルが200円を超えていてもおかしくなかった。それくらい市場の圧力が強かった」と。

 政府・日銀の介入があれば簡単に海外ファンドの売り圧力などはね返せる、と言えるほど、通貨円をとりまく状況は盤石ではない。藤巻が警告する危機のマグマはあいかわらず消え失せてはいない。いまだ沸々とくすぶっている。

●原 真人(はら・まこと)
1961年長野県生まれ。早稲田大卒。日本経済新聞社を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て、現在は編集委員。著書に『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、『日本「一発屋」論─バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)がある。

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