経済評論家の藤巻健史さん
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 多くの国民から支持されていたアベノミクスだが、日本経済を破壊してしまうことはないのか。この問いに対して最も悲観的な見通しを語るのは藤巻健史氏だろうと、アベノミクスの名付け親である原真人氏は言う。藤巻氏はかつて米モルガン銀行東京支店長時代に「伝説のディーラー」と呼ばれ、参院議員のときには安倍首相や黒田総裁に異次元緩和の危うさを最も厳しく問い続けた人である。原氏の新著『アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論』(朝日新書)での藤巻氏との徹底闘論から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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――なぜ世界的インフレがなかなか収まらないのでしょうか。

藤巻健史(以下、藤巻):世界的なインフレはロシアによるウクライナ侵攻とか、新型コロナの感染拡大とかが理由だと誤解している人も多いが、基本的には世界中で異常な金融緩和が続けられ、市場でお金がジャブジャブになっていることがもたらしたものです。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)はいま超金融緩和をやめて出口政策に向かっており、金融引き締めを急ごうとしています。しかし本当はもっとずっと早く着手しなければいけなかったのです。FRBは、1980年代後半の日本のバブル経済をもっと研究しておくべきでした。それができていなかったので、今回、金融引き締めがずいぶん遅れてしまったのです。

――日本のバブルの研究をしておけば対応は違ったものになったというのですか。

藤巻:日本では85~89年にお金が余っていたせいで土地や株などの資産価格が急騰しました。その資産効果がものすごい狂乱経済をもたらしました。当時の日銀総裁、澄田智(1916~2008)は後に「消費者物価ばかり見ていて、不動産価格などを見ていなかった」と反省しています。それこそ今の米国が教訓とすべきことです。米株価はいまも史上最高値圏にあります。いわば投資家全員がもうかっている状態です。そんなときの資産効果はものすごいものがあります。たとえば、バブル期の日本では、飛ぶように売れた高級車の名にあやかって「シーマ現象」と呼ばれる経済状態になりました。経済はものすごく回転していたのに、なぜか消費者物価は安定していたので金融引き締めが遅れたのです。

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急激な円安が進む3つの要因