白川方明・元日銀総裁
白川方明・元日銀総裁
この記事の写真をすべて見る

 アベノミクスの名付け親である原真人氏は、新著『アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論』(朝日新書)の中で、白川方明元日銀総裁について「これほど金融理論や金融政策を深く究めることに誠実で、説明責任を果たそうと努めた総裁はいなかった」と評する。ただ「日銀は政府の子会社」と言ってはばからない安倍晋三氏が第2次政権を発足させると、白川日銀は激しい批判にさらされた。白川氏はアベノミクスの10年をどう総括するのか。原氏が過去の白川氏へのインタビューから紐解く。同書から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

【写真】日銀総裁時代の白川氏はこちら

*  *  *

 安倍によって生み出されたアベノミクスと黒田日銀の異次元緩和は、白川日銀を完全否定するところからスタートした。それは伝統的な中央銀行のあり方を覆そうという試みでもあった。

 今日的な意味での中央銀行が誕生したのは19世紀後半に入ってからのことだ。独立した中央銀行という考え方が多くの国に広がったのは、せいぜいここ数十年のことだろう。この数世紀にわたっていくつものバブル崩壊と財政破綻、通貨暴落という不幸な歴史を重ねた末に、やっとたどり着いた人類の知恵の結晶でもあった。

 通貨を発行する主体は政治から距離をおいたところにあるほうがいい。そのほうが通貨価値を守りやすく、経済を安定させやすい。そう考えられて中央銀行が誕生した。

 その仕事に忠実であろうとしたのが白川であり、逆に批判的だったのが安倍や黒田であった。

 たぶんこうしたあつれきは民主主義のなかではいつでも起きうる。時の権力者には常に景気刺激的な金融緩和をさせたいという誘惑がつきまとうからだ。

 新型コロナ感染拡大とウクライナ戦争という二つのショックに際し、先進諸国はどこも超金融緩和や財政出動によって、極端に拡張的なマクロ政策を繰り出した。その反動でもたらされたのが昨年来、世界中を襲った激しいインフレ圧力である。

暮らしとモノ班 for promotion
明菜・聖子・ジュリー…スター・アイドル作品はフィジカル盤(CD/LP/カセット/DVD/Blue-ray)で!
次のページ
金融緩和は将来からの前借り