白川:2012年12月の総選挙で自民党が(大胆な金融政策で物価を上げるべきだと唱える)リフレ派の主張を全面的に掲げ、日銀法改正にまで言及して圧倒的勝利を収めました。国民もある種の実験的政策に賭けてみようという気分になったのでしょう。一方、日銀には法の規定に従い、独立した中央銀行として物価と金融システムの安定を維持する責任があります。民主主義のなかで、どう対応すべきか考え抜きました。そして、なんらかの共同文書を公表するのはやむをえないと判断しました。もちろん私が不適切な文書にサインした結果、通貨の安定が脅かされるようなことになるのだけは絶対に避けなければなりません。(共同声明には)2%のインフレ目標を、期限を区切って機械的に追求しなくてすむように、日銀として譲れない基本原則をすべて書き込むことを求め、そうなりました。

 政府と日銀の「共同声明」とは、2013年1月、リフレ論を唱える第2次安倍政権が日銀に強く求めて作った「デフレ脱却」を目標とする政策連携の合意文書のことである。安倍政権は当初、日銀に「物価安定目標2%を、2年以内に達成する」と期限目標つきで公約するよう強く求めた。しかし白川らは期限の設定を強く拒んだ。その結果、共同声明の文書には、日銀は金融面での不均衡やリスクを点検しながら運営する、そして政府は成長力の強化や持続可能な財政構造を確立するための取り組みを強力に推進する、という前提条件つきで「できるだけ早期に実現することを目指す」という表現が盛り込まれることになった。

 ちなみに白川は2023年1月に朝日新聞に載った別のインタビューで、2%目標を機械的に追求しなくても済むような共同声明にこだわった理由について、「政府の深刻な財政状況を考えると、日銀が金融緩和を通じて際限のない国債の買い入れに組み込まれる懸念があり、(中略)日銀の使命達成が難しくなると考えたからだ」と述べている。

 2018年のインタビューに戻ろう。

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持続可能かどうかを点検することが大切