欧米の中央銀行は超金融緩和から一転して急な引き締めで対応せざるを得なくなった。この激しい政策の振れ幅がいま金融危機を引き起こしつつある。2023年3~5月、米国では史上2番目、3番目、4番目の規模の銀行破綻が相次ぎ起きた。欧州では名門クレディ・スイスが破綻の危機に瀕して身売りせざるを得なくなった。

 わがままな民意に振り回されることも多い民主主義のもとで、中央銀行はときに「打ち出の小槌」のような役割を求められる。紙幣をどんどん刷って政府の借金の肩代わりをしろ、ということだ。そのとき中央銀行はどうすべきか。

 この問いに対し、アベノミクスの10年を経て、白川は何を感じ、どう考えてきたのだろうか。これまでのインタビューと発言から紹介したい。

 コロナ危機前の2018年に、「民主主義と中央銀行」をテーマに朝日新聞に掲載したインタビューをご覧いただこう。白川はそこでこう述べている。

「経済は常に変化する。だから中央銀行は永続的な学習組織であり続ける必要がある」

 政府からも国民からも、その時々の環境によって求められるものは百八十度変わることもある。権力の思惑で理論や論理がねじ曲げられることも珍しくない。そのなかで生きた経済を相手にする中央銀行がどう行動すべきかという答えは簡単には見つからない。常に学習し続けるしか道はない、ということか。

■金融緩和は将来からの需要の「前借り」

――先月(2018年10月)の著書『中央銀行』の出版で、2013年春の総裁退任以来の沈黙を破りました。なぜいま回顧録を書いたのですか。

白川方明(以下、白川):中央銀行や金融政策の役割について社会全体で議論を深めたいからです。その材料を提供するためにも、激動の時代の記録を残しておく義務があると考えました。

――インフレ目標もテーマの一つですね。総裁時代、政府・日銀の共同声明をめぐって政府と意見が対立した際の経緯も詳しく書かれています

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中央銀行としての責任