6月に史上最年少で名人位を獲得した将棋の藤井聡太七冠は、先日も棋聖戦を4連覇し、前人未到の八冠にまた一歩近づきました。AERAに連載した棋士たちへのインタビューをまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちはいま』(松本博文著、朝日新聞出版)では、渡辺明九段や谷川浩司十七世名人をはじめ多くの棋士が、藤井七冠との対局の印象を語っていて、小学生だった頃やルーキー時代からタイトルを獲得していった現在まで、藤井七冠の軌跡が感じられます。2021年4月19日号に掲載された渡辺明九段のインタビューでは、21年2月に藤井七冠に負けた敗因について語りました。(本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです)
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2021年2月の朝日杯準決勝。渡辺明名人は藤井聡太二冠を相手に途中まで完璧な試合運びで優位に立った。しかし秒読みの終盤で追い込まれて逆転負け。最後、藤井玉には難解な詰みがあったが、渡辺は気づかず、藤井は気づいていた。
「同じ1分でも藤井君は読める量が違う。最後、僕があの詰みを読めていれば勝ちだけど、それはもう僕の勝ちパターンじゃないんですよ。自分の勝ちパターンで勝てない時点でもう追い込まれている。それ以前の段階で決めるのが僕の勝ちパターンなんで」
渡辺棋聖に藤井七段(肩書はいずれも当時)が挑戦した棋聖戦五番勝負。第1局は20年度を代表する名局となった。藤井は最終盤、渡辺に対して信じられないような踏み込みを見せて勝ちきった。
「他の人は『無理だ』と思ってああいう筋には踏み込んでこないです。普通はもうちょっと息長く、安全にいく。それをいきなりバーンといって。勝ち切れなければ暴発です。勝てると思ってきてるわけですから、そこはやっぱり、藤井君はちょっと他の棋士とは違いますよね」
17年度、渡辺は生涯初の負け越しを経験。それを機にAIでの研究を採り入れ、以後も変わらず頂点に立ち続けている。