『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』 表紙
『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』 著者:松本博文 定価:1760円(本体1600円+税10%)

 佐藤は以前、次のように語っていた。

「算数の四則計算に例えてみれば、他の棋士が計算力を駆使して『240ぐらいだ』と概数で計算値を割り出すのに、藤井さんだけは『241・51だ』みたいに、小数点第2位くらいまできっちり答えてくるような(笑)。アバウトなところがほぼない印象なんです」(「AERA」2020年7月13日号)

 改めて、藤井の驚異的な強さについてどう思う?

「読みの能力については歴代の棋士の中でも突出してると言ってもいいんじゃないですかね。将棋は読み切れないからこそ、補う工夫が大事だと思われてきた。しかし藤井さんの場合は読みで正しい道を導き出してしまう。『先が見通せない? じゃあ読めばいいじゃん』みたいな感じで。将棋というゲームは読みの力で解決されてしまうと、わりとどうしようもないんです(笑)。作戦に関する駆け引きのようなメタな次元や抽象的な形で対抗策を示そうとしても、藤井さんの場合はミクロで具体的なところまで深く読める。どんな策を凝らしてみても、読みの重要性は変わりません」

 時を経て現在。藤井は若き王者として君臨している。

「もちろんこちらも本当はタイトルを持っていたほうがいいのかもしれませんけれど(笑)。今みたいに藤井さんが五冠を持ち、強さが周知されているほうが指しやすいです」

 11月3日の棋王戦挑戦者決定トーナメント準決勝・佐藤九段―藤井五冠戦。佐藤は得意の矢倉で堂々とぶつかって、会心の逆転勝ちを収めた。

(文/松本博文)

松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2022年11月21日号初出

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