クラリネットは不思議だ。誰もが少年少女期に抱く懐かしい風景を想起させる。80歳を迎えたリチャードさんだが、楽器を持った立ち姿は少年のように初々しかった。
ステージにチック・コリアの大きな写真が掲げられると客席からはひときわ大きな拍手。スティーヴがプロデューサーとなり、リチャード&ミカ・ストルツマンらとともにチックの名曲を奏でたアルバム「スピリット・オブ・チック・コリア」をファンは知っていた。「マリンバはピアノとドラムの中間に位置する楽器だ」という言葉を残したチックがミカさんのために作った「マリカグルーブ」を演奏、アンコールは名曲「スペイン」。「チック、ありがとう」とミカさんは涙声になった。
日本公演を終えてマサチューセッツに戻ったリチャード&ミカ夫妻。フェイスブックを覗くと、リチャードさんはラジオ番組に出演したり、ミカさんは初めてのソロLPをリリース、そしてヨーロッパ旅行にも。
日々をゆったりと、彩り豊かに過ごすことが音楽家にとってとても大切なことなのだろう。現地のウェルズリー大学に招待されている春樹さんを自宅に招いてワインと食事でもてなす様子も微笑ましかった。
5月にNYカーネギーでリサイタル、8月から故郷日本でツアーしますとミカさん、今年もお会いすることが楽しみだ。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2023年3月31日号