TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。クラリネット奏者のリチャード・ストルツマンさんとマリンバ奏者ミカさん夫妻について。
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ジャクソン・ブラウン、ボブ・ディラン、エリック・クラプトンと、コロナが落ちつき、大物アーティストの来日公演が続くが、昨年、日本のファンのためにツアーを敢行したレジェンドがいる。
マサチューセッツからやってきたクラリネット奏者のリチャード・ストルツマンさんとマリンバ奏者ミカさん夫妻。6月に早大国際文学館(通称村上春樹ライブラリー)でミニライブを披露、村上春樹さんは「ロバート キャンベルさん(国際文学館顧問)の関係で来てくれたんですが、とても良かったですね」と振り返っている(BRUTUS特別編集 合本 村上春樹「読む。聴く。観る。集める。食べる。飲む。そして、思う。」)。
世界各国で出版された春樹さんの初版本に囲まれながら、グラミー賞2度受賞のリチャードさんは柔らかなクラリネットの音色を披露し、ミカさんは妖精がダンスするように優雅にマリンバを演奏。ビートルズ『ノルウェーの森』では同曲に由来する村上小説が音となり、ふわっと立ちのぼる心持ちになった。ラスト曲『ニュー・シネマ・パラダイス』で隣に座っていたマーサ・ナカムラが涙を拭いていた。「延江さんに気づかれちゃった」と詩人の彼女が微笑んだ。
村上ライブラリー以外にストルツマン夫妻は21公演に及ぶツアーで日本の6~8月を過ごしたが、青山のブルーノート東京にはドラムのスティーヴ・ガッドが登場。ミカさんのマリンバは1ページずつ童話を読んでいるように丁寧で優しい。コムデギャルソンの深紅の衣装を着た彼女が繰り出す音符の足元をスティーヴのドラムが照らしているように聞こえた。目配せし、言葉を交わすような2人のリズムにリチャードさんのクラリネットが乗り、なんとも豊饒(ほうじょう)な世界が生まれた。