後半が始まり、あれ? ちょっと雲が出てきて涼しい風が……。椅子に座るお客が増えてきた。選ばれし七人に吸い寄せられるように、あれよあれよと五十脚が埋まった。「やった!」「やったな!」「よっしゃっ!」。七人と私は顔を見合わせ満員御礼を喜んだ途端、「ゴロゴロゴロゴローーーっ! ピシャーーーーっン!!」近くに雷が落ちたと思ったら、土砂降り。なんだ、この天気は! 主催者の心配した通りになってしまった。
あとは蜘蛛の子を散らすようにお客は本堂に避難し始めた。そして誰もいなくなった。もちろん私も避難した。本堂から滝のように降る雨を眺めながら主催者が「やっぱり最初からここ(本堂)でやっときゃよかったかなぁ……」と呟いた。おい。
15分ほどで雨は止み、またカンカン照りだ。もわ~っとした湿気が辺りを包み、さっきより暑いのではないか? 座面を拭いて落語会再開。これから先のことはよく覚えていないのだが、今更だけど思うのは「なぜ外でやらなければならなかったのか」を聞いておけばよかった、ということと、「意外と外でやるのは嫌いじゃない」ということ。でもペットボトルの水を飲みながら落語やったのはこの時だけだ。
これは7年くらい前だったか。令和5年の暑さじゃ絶対出来ないだろうな。地球が泣いている。シメが適当なのもみんな「酷暑」のせい。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!