喋ってるうちに顔が汗でビシャビシャになった。滴り落ちた汗の雫が太ももにポタポタと垂れ、膝前の緋毛氈(ひもうせん)にも汗染みがつく。身体からもジワジワ汗が噴き出てくるのがよくわかる。喉が渇く。クラクラする。20分喋ったらもう限界だ。なんとか喋り終えて控え室に戻る。鏡を見ると頭からバケツで水をかぶったような姿。暑いというか「酷い」。まさに「酷暑」。しかしまぁこんな暑さの中、慣れているのか平気な顔してゲラゲラ笑っているお客さんは丈夫そのもの。会員の空席待ちが多いのもうなずける。
こちらは屋根があるからまだマシなほうで……これまた愛知県某所。あのお寺の落語会は本堂内でなく、境内だった。屋外。しかも8月末。「心配なのは夕立ちですねぇ」と主催者が言った。何言ってんだ、その前にこのカンカン照りの太陽だろうが。本堂に上がる階段上のスペース(賽銭箱の正面)に高座を作って、砂利敷きの境内に五十脚のパイプ椅子。ギリ演者は日陰だが、お客さんは日陰なし。
開演が15時。日陰だったはずの高座は向かいからの西陽がガンガン当たるようになった。そうか、時間が経つとこうなるのか。まさに天然のスポットライト。もちろんお客さんも後頭部に直射日光を受けるので、それに耐えられる人しか座っておらず、だいたいは日陰に避難して私の落語を聴いている。目の前には椅子五十脚分の七人のお客。選ばれし猛者たち。猛烈な西陽、風はなし、うるさいほどの蝉時雨。そして前からはヤケクソ気味の落語。耐える客七人と落語家一人。
「俺たちよくやってるよな」「一人も欠けることなくこのままいこうぜ!」。なにかしらん、一体感が出てきた。前半が終わり後半。休憩中は本堂へ移動。ていうか、なにも使ってないようだからここでやればよかったんじゃないか? と思ったがあえて口には出さない。口にすると心が折れそうだったから。