昨年12月に改正された障害者雇用促進法を受け、障害者雇用率の段階的引き上げが決まった。同法でうたわれている障害者の「雇用の質」は今、どうなっているのか。さまざまな模索を図るベネッセビジネスメイトの取り組みに迫った。AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。
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「コンサル業務は今回で終わりにしてください」
法人向けに障害者の雇用促進支援を行うコンサルタント会社の男性は3年前、クライアントの大手メーカーから突然、契約解除を宣告された。
男性は、個々の障害者の持ち味や能力特性を積極的に業務や組織に生かす「雇用の質」の重要性を説き、メーカー側の人事担当者も「グループ会社を挙げて取り組みを強化したい」と意気込んでいた。「契約解除」はその矢先。納得がいかず、理由を問いただした男性に人事担当者はこう明かした。
「農園を買い取ることにしました。役員会の決定です」
障害者雇用促進法で定められた法定雇用率は現在2.3%。2026年度に2.7%まで段階的に引き上げられる。企業にとってこの数値は決して低くない。そこで注目を集めているのが雇用を事実上代行する「障害者雇用ビジネス」だ。法定雇用率を満たしていない企業に障害者を紹介し、自社が運営する農園などで働いてもらう。数人の障害者と管理者1人を配置した農地を栽培に必要な資機材とともに区画単位で販売。契約企業から農園管理料や障害者らの紹介料などを得るビジネスモデルだ。自治体と連携協定を締結して農園を開設するケースも増えている。
男性は冷静にこう振り返る。
「労務コストを考えると、農園は企業から見れば魅力的な『商品』なのだと思います。障害者雇用ビジネスにはやっぱり市場がある、と実感しました」
厚生労働省の実態調査によると、障害者雇用ビジネスの実施事業者は今年3月末時点で23法人。利用企業数は1千社を超え、6500人以上の障害者が雇用されている。125カ所の就業場所のうち7割を超える91カ所が「農園」だった。中には、労働条件や労務管理を外部に丸投げする「在籍型出向」もあり、厚労省は「雇用率達成のみを目的とした形式的な雇用のために活用」される可能性を指摘。仕事が野菜栽培などに限定され、「障害者個人の能力や適性を踏まえた配置や業務量になっているのか」や、「能力を踏まえた配置転換の機会が少ないのではないか」といった懸念も挙げている。
障害者も組織の一員として希望や適性に応じた仕事で能力を発揮し、事業活動に参加、貢献できるのが望ましい、というのが国の障害者雇用の考え方だ。企業側には、個別の業務の選定やマッチングを通じて障害者も一緒に働ける職場環境を築くよう要請している。