■常に親会社のコア業務に、近い場所で働ける環境
企業と障害者を切り離すタイプの障害者雇用ビジネスは、「雇用の質」の面から問題がある、と冒頭の男性は訴える。と同時に、全否定できない面もある、と複雑な思いも明かす。障害者を送り出す福祉施設や保護者からは歓迎する声が少なくない、というのだ。
「全国の福祉施設の職員や保護者にどう思うか尋ねると、『有り難い』という声をたくさん聞きました」(男性)
理由は明快だ。福祉施設での作業は就労継続支援A型事業所でさえ最低賃金に近い給料しか得られない。B型事業所であれば工賃は月平均1万6千円程度だ(21年度)。このため、雇用ビジネスのルートでも民間企業に就職できれば収入増につながる。厚労省の実態調査でも、農園から利用企業本社に異動したケースや、「将来的には自社内への配置転換を検討したい」と回答した企業もあった。企業が障害者雇用を導入するステップとしても、一概に否定できないのが実情なのだ。
障害者雇用の理想と現実の乖離を埋めるにはどうすればいいのか。ヒントになりそうな企業の取り組みがある。
ベネッセコーポレーションの特例子会社「ベネッセビジネスメイト」の茶谷宏康社長は、自社のスタンスと障害者雇用ビジネスとの違いについてこう説明した。
「常に親会社のコア業務に近い場所で働けるようアプローチしています。うちのメンバーがいなくなると、親会社の社員は困るはずです。そこが親会社と切り離された環境で働く雇用ビジネスとの最大の違いだと思います」
さらにこう続けた。
「親会社からの業務発注でも常に価格やサービス面で外部の会社と比較され、競争関係にあります。このため、同業他社にひけを取らない質の高いサービスを追求しています」
特例子会社の多くは、障害者に支払う給与などの経費を親会社に請求する「総括原価方式」を採用している。一方、同社は「市場競争力を持つ自立した会社」を志向するビジョンを掲げた2010年以降、独立採算経営を維持している。
「私たちは障害者もビジネスに不可欠な存在だと考えています」。こう強調する茶谷さんが社長に就任したのは20年4月。コロナ禍が障害者雇用の現場を直撃するのを目の当たりにした。影響をもろに浴びたのは清掃とメールサービスという業務の柱だった。
「出社率が低下する中、拠点が集約されることで、清掃業務自体が大幅に縮小する危機に陥りました」(茶谷さん)