もともとの性格や家庭環境にもよるし、すべてがそうとは言い切れないのだが、田舎には人と人の深い繋がりや、心の豊かさなど、「ならでは」の良さがある。一方で、のんびりとしたところや遠慮がちなところ、スポーツにおいては勝負弱さに繋がる側面は弱さと言えるだろうか。大谷の母校である花巻東高校野球部の佐々木洋監督は、そうした県民性も考えながら選手たちと向き合う指導者だ。
佐々木監督は「グラウンドに出たら、牙を出せ」と語りかけてきた。要するに、グラウンドに立ったならば、闘争心や負けたくないという強い気持ちを持て、と。一方、グラウンドを離れたら、「牙をしまえ」とも言う。
佐々木監督のかつての言葉だ。
「大谷翔平というのは心の中で牙を出したり引いたり、勝手にやってしまうんです。ピッチャーとバッターで、それぞれに牙の使い方が違うんです。スイッチの入れ方というんですかね。岩手県民の本質も心の中に持ちながら、そういったことが上手いんです」
WBCでの世界一の瞬間は、彼のそんな本質が映し出されていたように思えるし、ゆえに前人未到の二刀流をバランス良く実現できているとも言える。
※AERA 2023年7月24日号より抜粋