「松本の性格やこれまでのマネックスの歩みを把握し、将来の戦略について同じ目線で捉えている人は限られています。未来永劫、松本がトップに立ち続けるのは不可能ですし、永続的に企業価値を高めるためには、誰かがいったん彼の後任を務める必要がある。さもなければ、次の代へとつながっていかないのではないかと考えました」


 マネックス証券トップに就任早々、清明さんは「松本大のマネックスから私たちのマネックスへ」というメッセージを内外に発信したという。


 いつまでも「松本ならどう考えるのか」との視点で捉えていると、いっこうに“松本商店”的なところから脱却できないと考えたからだ。


「対外的にも、次世代へバトンタッチを声高に宣言する必要がありました。創業当初からのお客様にとっては、『マネックス証券=松本大』だからです」


■新しいマネックス像


 もっとも、マネックスグループ全体を率いる今は、証券トップの頃とはスタンスが異なるという。多様なサービスを展開するグループを統率するうえで、今なお松本さんの役割は大だ。


「今後も松本には、クリプトアセット(暗号資産)事業の監修や新規事業のアイデア出しなどに貢献してもらいたい。松本の力も借りつつ、新しいマネックス像を作り上げたいと考えています」


 実はこうした抜擢に対し、自信を持って引き受けたことは一度もないと清明さんは語る。


「できないことをコミュニケーションツールに用い、わからないから教えてと請えば、大勢の人が知恵を貸してくれます。むしろ下手に自信があると、他人の意見を聞けずに失敗しがち」


 金融界のトップという立場に関して言えば、依然として女性はマイノリティーだ。その点に関して、清明さんはこう考える。


「今はマイノリティーの声に耳を傾けることが求められる時代。マイノリティーであることを強みに変えられると思います」


(金融ジャーナリスト・大西洋平)

AERA 2023年7月17日号

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