ウルグアイ東方共和国、通称ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに囲まれた小さな国だ。日本の半分ほどの国土に約340万人が暮らしている。農牧業が盛んで、一人あたりのGDPは南米大陸で最高レベル。サッカーのワールドカップで最初に優勝した国でもある。
このウルグアイのムヒカ大統領が2012年、ブラジルで開かれた環境問題に関する国際会議で語った話をもとに制作された絵本が、『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』だ。国民から親しみをこめて「ペペ」と呼ばれる大統領は、各国の代表者たちに向かって〈目の前にある危機は地球環境の危機ではなく、わたしたちの生き方の危機です〉と訴えた。その上で、自身の欲深さに従って経済効率や利便性ばかりを求めつづける生き方を見直そうと提案。先人が遺した教訓も添えて人間の幸せについて言及した。
〈貧乏とは、少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである〉
ムヒカ大統領の話に説得力があるのは、タイトルどおり、彼が「世界でいちばん貧しい大統領」だからだろう。月収の9割をボランティア財団に寄付し、公邸ではなく妻が所有する農場に住み、友人からもらった中古のビートルに乗り、公職の空き時間には家畜の世話をする大統領。貧困家庭で育ち、かつては反政府活動に身を投じて四度逮捕され、軍事政権下に13年間近くも収監されて政治家になった彼は、よくよく「足る」を知っている人なのだ。
そんなムヒカ大統領の暮らしぶりがテレビで紹介された際にこの絵本も取りあげられ、俄然、話題となった。しかし残念なことに、彼はこの2月末日をもって任期満了を迎えてしまった。こうなったら、名監督エミール・クストリッツァが撮っている彼のドキュメンタリー映画を楽しみに待つとする。なお、映画のタイトルは、『最後のヒーロー』になるらしい。
※週刊朝日 2015年3月13日号