「あと、自分を信用してないし、メンバーにも過度な期待をしてないんですよ。期待を裏切られると身が持たないし、ミュージシャンが音楽を諦めるのは、金銭的なことよりも心が折れることが原因になることが多いので。自分たちに対して“もともと売れるようなバンドじゃないからな”と思っていれば、思い通りにいかないことが起きても、“まあ、こんなもんか”と受け止められるはずなので」
「基本的にネガティブな人間ですけど、ライブにだけは熱くなれたんですよね」という鬼龍院。『超!簡単なステージ論』は、“好きなことを仕事にしたい”という目標を持つすべての人に有益ではないか……と彼にぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「……すみません! それは否定させてください! 基本的には“ステージに上がる人”に向けて具体的なアドバイスを盛り込んでいるので、そうでない人にはいらない情報も入っていると思うんです。僕、ライブのお客さんに“よく見えなくて、残念でした”と言われると異常に落ち込んでしまうんですよ。それと同じで、この本を買った人に“想像してた内容と違った”と思われるのがイヤなので……」
過度な期待をされたくない、というのは、期待を裏切りたくないという強い思いの表れだろう。こんな言葉からも、鬼龍院がステージに上がる人として成功している理由がわかった気がする。
(森 朋之)
きりゅういん・しょう
鬼龍院翔、喜矢武豊、歌広場淳、樽美酒研二からなるヴィジュアル系エアーバンド、ゴールデンボンバーのボーカル。バンドの全楽曲の作詞・作曲を手掛けるほか、ライブの演出、ライブの脚本、ステージ構成も担当する。エアーバンドというコンセプトどおり、ライブでは鬼龍院翔以外は楽器を弾かず、踊ったり寸劇を演じたりするなど、さまざまなパフォーマンスを行うのが定番となっている。