卵もずいぶん用意されているけど、番付が上の人が4~5個使っちゃうから、すぐに無くなる。下の者がうっかり卵を使おうものなら、すぐに兄弟子に「この野郎! 顔じゃねーよ!」と頭を引っ叩かれるんだ。すき焼きを食うにも序列があるんだから、「絶対に偉くなる!」「あいつには負けたくない!」という気持ちが出てくるよね。

 相撲部屋も今は変わったろうね。見ている限りだと、若い衆もみんな平等に食べているようだ。俺たちのときは鍋のほかに、おかずが3~4品付くのは大鵬さん、大麒麟さんを筆頭に、十両以上で、俺たちは鍋だけだった。鍋の汁だけで、どんぶり飯を3杯食べたし、その汁も漬物すらも無くなって、砂糖をかけてご飯を食べたりもしたよ。お腹いっぱいにならないとしょうがないからね。

 ちゃんこは、上の人が食べ終わった後に空いた席の取り合いで、座るのも競争だった。今の力士は飯を食うときは正面を向いてあぐらをかいているけど、俺たちのときは、半身になって箸を持った手だけのばして飯を食わなければならなかった。座れる人数が限られているから、できるだけ多く座れるようにみんな半身で車座になるんだ。偉そうに正面を向いて食べようものなら、また兄弟子からげんこつが飛んでくる。そんな時代だったよ。

 ちなみに、大鵬さんだけはすき焼きに限らず、ちゃんこは大広間で一人、付け人を20人もつけて食べていたね。よく覚えているのが、大鵬さんはいつもイクラの醤油漬けを茶碗一杯にして食べていたこと。

 俺たちは給仕していて、大鵬さんがあまりにもうまそうに食うもんだから「どれだけうまいんだろう」っていつも思っていてね。「いつか目を盗んで食ってやろう」と思いつつ、16歳ころにときにこっそり食ったけど、やっぱりうまかったね! そりゃあ、大横綱のものを盗んで食ったんだからうまいに決まっているよね(笑)。

 それで味を覚えてから、今でもイクラの醤油漬けは俺の大好物だ。どのこの寿司屋に行っても最後はイクラを食べるし、家でも大鵬さんのようにガバっと盛って食べるよ。

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