作品の場面カット(原題: 『PERFECT DAYS』/上映時間:124分 / 製作:日本 / 日本配給予定/プロダクション Wenders Images Wenders Foundation Spoon/(C)2023 MASTER MIND Ltd.)
作品の場面カット(原題: 『PERFECT DAYS』/上映時間:124分 / 製作:日本 / 日本配給予定/プロダクション Wenders Images Wenders Foundation Spoon/(C)2023 MASTER MIND Ltd.)

「映画にはスピリチュアルなレベルがあります。役所さんはそれを承知し演技しました。説明する必要はありませんでした。演技で、精神的な面で表現してくれたのです」

 監督によると、俳優の作業で大切なのは空間をいかに埋めるか、空間との関係性をうまく作り上げることだという。例えば平山が部屋を掃除するシーン。

「箒ではくことを想定していたのですが、彼が、祖母がやった方法で掃除しようと提案し、いきなり本番でバケツに新聞紙を入れて濡らし、それを畳に散らまき彼は部屋という空間を見事に埋めてくれたのです。あれ以上ベターな方法はないと思います」(ヴェンダース監督)

 ちなみに、監督が明かしたところによれば、平山という主人公の配役が決定した段階で、役所さんは自らトイレの清掃を体験。監督は役作りで助言は必要なかったとか……。

 役所さんはこう説明する。

「(清掃会社の方から)あすからうちで働けますよ、と言われました(笑)。一日ふつか、プロに密着し学びました。例えば洗剤もひとつだけでなく、汚れによって違い、道具もいろいろあって。ここは傷つくからこれでやってくださいと。細かいんですよ。よくやったといわれました」 

 実はヴェンダース監督は、日本びいきで日本に精通している。小津安二郎監督を尊敬してやまず、1985年に『東京画』という小津監督に捧げるドキュメンタリーを制作しているほどだ。今回、その監督が高崎卓馬氏と脚本を共作したことで、日本人が見ても違和感ない東京の生活を描いたあたりにも自然な説得力が生まれたのだろう。

 ヴェンダース監督自身はこの作品をどう見ているのだろうか。

「不思議ですが、小津映画を通し私は東京の20年代から彼が他界する60代までを目撃したような気持ちです。『東京画』を作り、彼がやってきたことを続けたいいと思いました。小津没60年の今、それを続けたいと感じている。東京も過酷な時代を潜り抜けた。85年、『東京画』を制作したときは、東京はSF都市のようで、世界の中心だと思った。90年代厳しい時代を潜り抜け、世界がパンデミックを体験した後では、現在東京も再生の途中にあると感じる。今回そこに自分がコネクトできた。東京は強健かつ健康的な都市である感じているのです」

 監督の日本へのリスペクトとタイミングや環境が作用して、生み出された役所さんの名演。今回世界最大の映画祭で、主演男優賞を授与されたことで、世界的トップ俳優として役所広司の名前は世界の隅々まで届くはずだ。

(高野裕子)

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