私たちは今、デジタル社会に暮らし、人間同士の関わりよりも情報収集に時間を多く費やしている。人とのつながりを手放して代わりに手に入れた世界は、私たちに何をもたらしたのだろうか。
【画像】山極所長が「最も深刻な問題」と語るフードロスの“現場”
人工的に作り出せる利便性や安全、契約に基づく関係に対し、安心や信頼関係は人との関わりのなかから生まれ、決して一人では得られない。「安心できる信頼社会」は、誰ひとり取り残さない持続可能な世界のキーワードだ。発売したばかりの『やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本』では、山極壽一総合地球環境学研究所所長に、人類学を起点とした「SDGsの本質」について話を聞いている。一問一答を公開する。
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――感染症のパンデミックは人類の危機の象徴のように言われますが、そうだとすれば、人間の進化とはいったいなんだったのでしょうか。
新しいウイルスが、今後も人間を脅かし続けるという可能性は否定できません。世界の人口は80億、家畜の頭数もそれぞれの種で10億を超えている。地球にすむ哺乳類の9割が人間と家畜なのです。しかも野生動物がすむ森林は、地球の陸地の3割を占めるにすぎなくなった。牧場と畑が4割以上を占めています。
ウイルス性感染症や細菌性感染症のほとんどが家畜由来です。要するに、感染の広がる個体群が大きくないと広がらないわけですから、「家畜を経て人間」という経路がウイルスや細菌にとって一番たどりやすいのです。
――科学の力でウイルスの蔓延を食い止めることはできないのでしょうか。
ウイルスが人間に戦争を仕掛けているわけではないのだから、ウイルスと共生する状況をいかにして作るかを考えないといけない。人間は物言わぬ自然を支配しようとしてきた。それが間違いだということを思い知らされたわけです。自然と共生する方策を探らないといけません。
――共生という言葉を手がかりにして、SDGsについてのお考えを教えてください。
SDGsの17の目標の一つひとつが独立しているわけではなく、それらを一つのシステムとしてとらえることによってトータルな目標のなんたるかが見えてくると思います。17の目標があって、より具体的な169の数値化されたターゲットが並べられています。それらを個々別々に達成したからといって、全体としての目標が達成されるわけではありません。