ウクライナとロシアの戦力の比較
ウクライナとロシアの戦力の比較
エマニュエル・トッド氏
エマニュエル・トッド氏

 アメリカが、そしてNATOが、なぜウクライナを支援し続けるのか。それは、ウクライナが負けてしまったら、自分たちの勢力としての面目がつぶされてしまうからだと。まあ、ただそれだけの話なんだと思うんですね。

 アメリカの国内的な利益というものを追い求めているだけといいますか、「道徳的によいことをしなければ」とか、そういう問題では全くないと思います。

 ただし、そこには、アメリカの工業的なシステムが、どこまで機能し続けるのかという問題があるというわけです。

 仮に、兵器をいつまででも生産できるというような保証を、もしアメリカが得ることができたとしたら、それはもう最後のウクライナ人が生き残るまで戦争を続けるということをアメリカはするのではないでしょうか。

池上 となると、とくにアメリカは24年が大統領選挙になります。もし、共和党のトランプ前大統領、あるいは「賢いトランプ」と呼ばれているフロリダ州のロン・デサンティス州知事が選挙で勝った場合、25年以降、アメリカはウクライナに対する支援をやめ、ウクライナの戦争は一挙にロシア有利に戦況が逆転するんではないか、大きく変わるんではないかという見方もあると思うんですが、この点についてはどのようにご覧になっていますか。

トッド そうですね、アメリカの大統領選に関しては、アメリカの「交代制」という側面に注目しすぎてはいけないのではないかと思うんですね。全体の政治システムのロジックを見るべきだというふうに考えます。

 たとえば、トランプ前大統領ですが、彼は大統領になった時点で、ほかの人に比べてそこまでロシア嫌いではなかったはずなんです。けれども結局、ウクライナの再武装化というのは、なされました。

 つまり、当選する大統領とは無関係な何か仕組みと言いますか、ロジックがあるというふうにも言えると思うんですね。

 なので、外の世界にいる私たちは、これは「アメリカフォビア(米国嫌悪)」の観点なんですけれども、まるで「アメリカ劇場」みたいな、マリオネットか何かの劇場みたいな感じでアメリカの大統領選を見るというのが一番いい方法なんじゃないかと。大統領選などよりもむしろ、アメリカのCIA(中央情報局)とかNSA(国家安全保障局)とか、金融システムとか、それから無責任なエリートとか、それを含めた全体についてのほうに注目すべきなんじゃないかと思うわけです。

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アメリカ嫌悪としての視点