![焼き石を首から詰めて山羊一頭を丸焼き。鍋いらず、体全体が調理器具[写真:本人提供]](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/768mw/img_1fbdca01baf04762141f9cc44255e15f133895.jpg)
■モンゴル語の野菜本
2019年、3年間の公邸料理人の任期を終えると、モンゴル人向けの野菜の本づくりに取り掛かった。
野菜を食べる習慣がないモンゴル人は、動脈硬化や心筋梗塞などの疾患が多い。親しくなった友人たちに元気でいてほしい。そのためにはモンゴルをよく知る人が書いた、モンゴル語の野菜の本が必要だ!
「『おいしい』はご縁を結ぶ。国を超えて想いは人を動かす。それも損得抜きだからこそ。そうやって夢は実現していきました」
22年にモンゴル語で出版された鈴木さんの本は、類書がなかったこと、コロナ禍で若者を中心に健康志向になったこともあり、売れ行き好調。鈴木さんはモンゴルで「野菜に詳しい人」として、料理に関わる活動を続行中だ。
新しいものを生み出すには、挑戦が必要なことはわかっている。だが、経験を重ねるにつれ、挑戦自体を負担に感じがちになる人も多いだろう。それには理由がある。脳もメンタルも老化するからだ。
脳の中でも、脳の司令塔である前頭葉は、老化の影響を受けやすい。認知症ではなくても、正常な老化現象として萎縮していく。アルツクリニック東京院長の新井平伊医師(順天堂大学医学部名誉教授)はこう話す。
「前頭葉は意欲に関係しています。年を重ねるごとに新しいことを知ったり、始めたりするのが億劫(おっくう)になるのは、前頭葉の萎縮が一因です」
つまり、新しく挑戦し、何かを生み出すためには、意欲をいかに維持するかが大切になるのだ。新井医師が開いている認知症予防の会「健脳カフェ」でも、プログラムの一環として、大学生との交流会、麻雀大会、体操、ゲームなど多彩な活動を行っているという。
「人間の精神活動の基本は、土台が意欲、その上に感情、一番上が知能です。つまり、意欲がなければ感情は動かず、知能を使う活動に至らない」(新井医師)
まずは、「楽しい」「面白い」と思うことを見つける。それが、「知りたい」「始めたい」につながっていくという。
最も身近な「楽しさ」「面白さ」は、人と触れ合うことで得られるのではないだろうか。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2023年6月26日号より抜粋