「金門島バブル」という言葉が生まれ、中国人観光客をターゲットにした店が次々にできていく。
そこを襲った新型コロナとそれにつづく台湾、中国との緊張状態。金門島の中心街では一時、一気に店が増えたが、その多くが経営難を強いられることになる。ホテルのなかには休業しているところもあった。
金門島の中心街を歩くと、ドラッグストアが多いことに気づく。日本でも同じだが、中国からの観光客がこの種の店に落とすカネは大きい。大きな店舗を構える康是美(コスメド)に入ってみる。台湾の大手ドラッグストアチェーンだ。客はまばらで、並ぶ化粧品の前で店員が暇そうに立っていた。
路線バスに乗って島内の山外にある昇恒昌金湖広場を訪ねてみた。ここは2015年にできた大きな免税店で、完成したときはアジア最大規模という宣伝文句が躍っていた。もちろん狙いは大陸からの観光客だ。しかしそのフロアは閑散としていた。
金門島は中国と台湾の緊張を左目で眺めながら、右目では往来の活発化をにらんでいる。そんな空気が伝わってくる。
●朝食は「島名物」のはずなのに?
島内の民宿に泊まった。客はほとんどいない。朝食つきの宿で、オーナー(58)からは、「金門島の名物朝食を用意します」といわれた。
翌朝、食堂に置かれていたのは広東粥だった。台湾の朝食といったら、揚げパンなどが入った塩味の豆乳やもち米のおにぎり、卵入り台湾風クレープやハンバーガーだ。しかし金門島の朝食は昔から広東粥だという。
前夜に入った食堂の主人の言葉がよみがえる。
「台湾有事っていうけど、中国は金門島には攻めてこないよ。この島の大多数は大陸の福建人と同じ意識というか、大陸の福建省と一体化しているから。領土的には台湾だけど、意識は中国。“本省人”主体の台湾とは違う」
本省人というのは台湾で生まれ育った人たちのことをいう。
たしかに、対岸にはアモイの高層ビル群が見え、そこから多くの中国人が訪れてきた。島も経済的な恩恵を受けたとあれば、昔の意識とは違ってきても不思議ではない。