現在、1日に数回、ガイド付きの無料ツアーが行われている。さっそく申し込み坑道の入り口で待っていると、ガイドが現れてヘルメットを渡された。
僕と同行カメラマン、そして台湾人3人がガイドの後について坑道に入った。坑道といっても鉱山のそれとは違い、避難路を兼ねた防空壕である。街の中心の地下5メートルほどの深さに、狭く、暗い通路が続く。
しかし明かりをとる小窓もない坑道は、見るものがなにもない。わずかな照明を頼りにただ歩く。つい早足になってしまう。途中では爆撃の音が響く。見学者に警戒を促す演出だ。しかし暗い坑道のなかで聞くと息が詰まる。20分ほど歩いただろうか。最後には戦闘意識を鼓舞するような歌が流れた。ガイドに聞くと、「英雄歌」だと教えてくれた。
長さ約2・5キロの坑道の出口は、金門高級中学の近くだった。息苦しさから解放された。強い太陽の光が目を射る。もし中国からの攻撃がはじまったら、金門島の繁華街にいる人々はこの坑道に逃げ込むことになる……。
地上の道を歩いてバスターミナルに戻った。道に沿って並ぶおしゃれな飲食店などを眺めながら、そこに流れるいたって穏やかな空気と、この地下に掘られた坑道の差がどうしても埋まらない。
テイクアウト専門のコーヒーショップの前にいた店のオーナーのLさん(35)に声をかけた。
「日本から? 早くきてほしいのは中国人なんだ。彼らがやってきてくれないと商売はあがったり。この店だっていつまでもつかわからないんだよ」
中国への思いを聞こうと思ったのだが、その前に中国人観光客を期待する声が機関銃のように耳に届く。以前は、台北郊外で兄と一緒にコーヒーショップを開いていたという。
「金門島は中国人バブルで儲かると聞いて借金をして店を出したけど、新型コロナと中国との緊張関係で中国人観光客は台湾にくることができない状態がつづいた。今も資金繰りに四苦八苦している」