だが、逆にだからこそ、ロシアによるウクライナ侵攻に誰よりも迷惑を被(こうむ)っていると言える。ロシア経済の落ち込みは自国経済を直撃する。欧米の対ロ制裁に巻き込まれることへの恐れも大きい。
また、こうした国々の多くは、伝統的にウクライナとも友好関係を維持してきた。事前に何の説明もなくウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン氏への不信感は根強い。
急速に経済力を強めている中国が地域での存在感を増していることが、ロシアの言いなりになる必要性を減じているという事情も見逃せない。
ここで少々乱暴かもしれないが、かつてソ連を構成していた国々を、ロシアからの距離が遠い順にまとめてみよう。
戦争中:ウクライナ
EUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、西側のメンバーとなった国:エストニア、ラトビア、リトアニア
EU加盟を申請している国:モルドバ、ジョージア
EU入りは申請していないが、ユーラシア経済連合にも集団安全保障条約機構(CSTO)にも加盟していない国:アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタン
ユーラシア経済連合やCSTOに加盟しているが、首脳がプーチン氏への不満を示した国:アルメニア、カザフスタン、タジキスタン
表だったロシア批判は控えている国:キルギス
ロシアとの「連合国家」を構成する国:ベラルーシ
ウクライナ侵攻を批判する国連総会の決議で、ロシアと足並みをそろえて反対票を投じたのは、ベラルーシだけだ。
プーチン氏はかつてソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだ。
歴史の歯車を逆転させようと、ウクライナ侵略を始めたが、近隣国のロシア離れを加速するという皮肉な結果を招いているのが現状だ。
旧ソ連圏で進む孤立は、欧米との対立よりもむしろ、プーチン氏に大きな心理的痛手を与えているのではないだろうか。(朝日新聞論説委員、元モスクワ支局長・駒木明義)
※AERA 2023年6月19日号より抜粋