「子どもの質問にどう答えを出したらいいかというはっきりとした目的を持って浄土教をとらえようとしていました。このとき彼は『是心是仏(このこころ、これほとけなり)是心作仏(このこころ、ほとけをつくる)』という法然上人の教えを理解しようとしたわけです。彼の後の活躍はこの教えの理解が元になって展開しています」
浄土宗僧侶でもある金子のもと、吉水は、中国の経典や資料を読みくだす訓練を受け、大学院に進んだ。
金田は金子ゼミで勉強することの面白さに目覚め、大学院に進み、吉水と親しく言葉を交わすようになった。2人は大学院の帰り道にもう1人の仲間と3人で議論した。雪の日にコンビニのレンジで熱燗(あつかん)にしたカップ酒で身体を温めながら、大学院のある西巣鴨から自転車を押して3人で歩く。「仏とは、仏教とは、みたいな青臭い議論を喧嘩腰(けんかごし)でしていました。最高に楽しかったんですよね」。2人は当時を同じ言葉で懐かしがった。
あるとき、「法然上人が説いた念仏を俺たちもちゃんと体験したいよな」という話になった。浄土宗の始祖法然は、ひたすら念仏を唱えることで誰もが救われると説いた。
7日間、寺にこもり、朝から10時間「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えた。南無阿弥陀とは「阿弥陀様、お願いします」という意味だ。阿弥陀如来像を見つめながら南無阿弥陀仏を唱え、自分の心を預けることを意識する。喉はかれ体力は尽きた。
繰り返す修行では金子も共に念仏した。仏教を身体性により捉え、吉水は「自分にとって仏とはいかなる存在か」の答えに近づいていく。
だが吉水にはやめられないことがあった。酒を飲むと虎になるのだ。その頃、僧侶として尊敬できない先輩たちがいた。飲むとその人たちへの反発が噴き出した。だが他人の批判をしながら飲む酒はまずい。自分の醜さをさらけ出しているとわかっていながら、暴言を吐き周囲に迷惑をかけた。