タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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男性は性暴力被害に遭わない/性的刺激を嫌がる男性はいない/望んだわけではない性行為でも、男性の心に傷は残らない。
こうした思い込みは、男性や男児の性暴力被害を矮小化(わいしょうか)し、見えなくします。
故ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害問題では、複数の元所属タレントが被害を告発しています。過去に週刊誌が報じたものの、大きく取り上げられずに終わっていた問題が、ここへきて広く報じられるようになりました。事務所社長が謝罪動画を公開したのち、被害者のカウンセリングや外部の専門家による再発防止の取り組みを発表。
一方、長きにわたって行われていた可能性のある性暴力と児童性虐待の事実解明の見通しは立っていません。
性暴力は魂の殺人と言われるように、被害者に生涯苦しむほどの深い傷を残します。被害を受けながらこれまで自分を責めて誰にも言えずにいた人たちが、安心して相談し、適切なケアを受けられる環境を迅速に整えるのみならず、なぜこのような深刻な問題が起きたのかを検証する必要があります。事実解明なくして適切な再発防止は成し得ません。
放送局や出版社などのメディア企業は、芸能人として働く人たちの安全を最優先にしてほしいです。芸能事務所との関係を気にするあまり、タレントとして働く人たちの尊厳が見えなくなっているのではないでしょうか。多くの人に愛される人気者は過酷な働き方でも仕方ないという古くからの考え方が残っているように思います。
ファンとして誰かを応援するときは、一方的に幻想を重ねるのではなく、その人が芸能人である前に一人の人間であることを忘れずに、安心して働ける環境に身を置いているかどうかに注視したいですね。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2023年6月12日号