渡辺明名人が投了し、藤井聡太は史上最年少名人・史上最年少の七冠制覇を成し遂げた。藤井聡太の出身地、愛知県瀬戸市の商店街では100人を超える人が対局を見守り、最年少名人の誕生の瞬間、歓喜に沸いた。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。
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将棋界の頂点を争う名人戦では、時代を代表する名棋士たちによって、数々の名局が残されてきた。その中でも、特に歴史の節目となる、大棋士同士による名勝負がある。今年2023年の名人戦は後世、何度も振り返られることになるだろう。
渡辺明名人(39)に藤井聡太六冠(20)が挑戦する第81期名人戦七番勝負。第5局は5月31日、6月1日に長野県高山村でおこなわれ、94手で藤井が勝利。藤井は4勝1敗でシリーズを制し、名人位を獲得した。
「まだ実感はないんですけど、やはり非常に嬉しく思いますし、また、とても重みのあるタイトルだと思うので、今後それにふさわしい将棋を指さなければという思いです」(藤井)
■対局の場は「藤井荘」
これまでの最年少名人記録は1983年、谷川浩司(現十七世名人)が作った21歳。藤井は40年ぶりにその記録を上回り、弱冠20歳で史上最年少名人となった。
また藤井新名人は竜王、王位、叡王、棋王、王将、棋聖とあわせ、七冠を同時に保持。96年に当時25歳だった羽生善治に続き、史上2人目の偉業を、史上最年少で達成した。
「そのこと自体を意識していたというわけではないので。それについて特に、ということはないんですけど。ただ本当に、このシリーズ、名人戦で持ち時間9時間という中で、自分の良いところも課題も多く出たシリーズだったかなと思うので、それは大きな収穫だったかなとは思っています」(藤井)
将棋盤のます目の数は81。将棋界では81歳まで長生きした人を「盤寿」として祝う。1935年に始まった実力制名人戦は今期、盤寿を迎えた。
名人戦七番勝負は桜が咲く頃に始まり、日本各地を転戦しながら、新緑が美しい季節に佳境を迎える。
第5局の対局場の名は「緑霞山宿(りょくかさんしゅく) 藤井荘」。偶然とはいえ、藤井聡太新名人誕生がかかる場所が「藤井荘」とは、なんとも出来すぎた話だ。
■偉業達成にも淡々と
作戦巧者の渡辺は先手番の本局、矢倉模様の立ち上がりを選んだ。対して藤井は第3局に続き角筋を止め、現代調の雁木で臨む。本格的な戦いが始まった2日目午前の時点では、渡辺がややリードしていたようだ。
「こちらの玉が見た目よりも薄い形なので、ちょっとやっぱり苦しいのかなというふうに考えていました」(藤井)