荻上直子(おぎがみ・なおこ)/1972年、千葉県出身。代表作に「かもめ食堂」(2006年)、「彼らが本気で編むときは、」(17年)などがある(撮影/横関一浩)
荻上直子(おぎがみ・なおこ)/1972年、千葉県出身。代表作に「かもめ食堂」(2006年)、「彼らが本気で編むときは、」(17年)などがある(撮影/横関一浩)
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 荻上直子監督の最新作「波紋」は新興宗教に依存する主婦が主人公だ。放射能、介護、宗教、障害者差別……。いびつな社会の縮図をエンターテインメントに編み上げた荻上監督に話を聞いた。AERA 2023年6月5日号の記事を紹介する。

【写真】荻上直子監督のオリジナル最新作「波紋」

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「うちの近所に宗教団体の施設があって、いつも綺麗な格好をした奥さまたちが出入りしているのを見ていたんです。ある雨の日、傘立てにものすごい数の傘があるのを見て『こんなに大勢の人がきているんだ!』と衝撃を受けた。それをきっかけに宗教に傾倒する女性の話を作りたいと思い始めました」

 と、荻上監督は映画のはじまりを話す。「波紋」の主人公・依子(筒井真理子)は水を信仰する宗教団体に傾倒している。そんななか失踪していた夫(光石研)が10年以上を経て突然帰宅し、依子の生活にさざ波がたちはじめる。

「脚本を書き終えたのは2020年ごろで、旧統一教会が再び注目された安倍晋三元首相の銃撃事件はまだ起こっていなかった。宗教に焦点を当てたのはまったくの偶然です。なぜ人は宗教に頼ってしまうのか、依子の気持ちはやっぱり理解できないし、共感できないんです。でもそういう人は何かが足りなくて、よりどころを求めてしまうのかもしれない。そんな思いを巡らせながら脚本を書きました。

 それに今回は自分の中の意地悪な部分や邪悪な部分を前面に出してみたいなと思ったんです。私は過去の作品から、いい人っぽい感じに思われがちだったんですけど(笑)、でも本当はすごく根に持つし、しつこいし、きらいな人は徹底的にきらいだし。そんな自分の中の“意地悪さ”が出ていれば、成功したんじゃないかなと思っています」

■我慢を強いられる社会

 夫への嫌悪を募らせる依子のもとに、息子の拓哉(磯村勇斗)が聴覚に障害のある恋人・珠美(津田絵理奈)を連れてくる。湧き上がる黒い感情を抑えきれない依子はいっそう宗教にすがる。共感しにくいヒロイン像だが、更年期の症状に悩まされ、介護や子育てに自己を犠牲にしてきた依子の姿は、現実を生きる多くの女性たちに重なる。

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