荻上直子監督のオリジナル最新作「波紋」は、現代社会の闇や不安、女性の苦悩を痛快に描き出す。全国公開中 (c)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
荻上直子監督のオリジナル最新作「波紋」は、現代社会の闇や不安、女性の苦悩を痛快に描き出す。全国公開中 (c)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

「いまこの日本にいる私たちはものすごく我慢を強いられている感じがします。特にコロナ禍のこの数年間は、不穏な空気や同調圧力の気味悪さが増している。しかも女性として生きていくことに、この国はすごく我慢がいりますよね。まだまだ『母親とは主婦とはこうでなければいけない』という縛りがあるとも思いますし、ジェンダー間の格差も解消されず、でもそれが当たり前になってしまっている。誰もが毎日『ヤダ、ヤダ』って思いながら、それでも我慢をしている、そんななかで『やっぱり、何かおかしい』と感じることが作品になっていくんだと思います。

■メディア報道から発想

 普段から新聞やニュースをよく読むので、そこから発想が生まれることも多々あります。17年の『彼らが本気で編むときは、』は新聞記事で目にしたトランスジェンダーの女性とそのお母さんの記事がきっかけでしたし、前作『川っぺりムコリッタ』は無縁遺骨のニュースに着想を得ました。本作で描いた宗教団体が“水”を信仰するのは、原発事故後に水を買い占める人々の映像が印象に残ったことがひとつの理由です。コロナ禍でも同じような場面が繰り返されましたよね。うちはまだ両親が元気で健在ですが、介護を女性が強いられ、苦労しているという状況もよく見聞きする。そうやって日々、頭にとまったものが、脚本を書くときに出てくる感じです」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年6月5日号より抜粋