今は忙しく暮らしていても、いずれどちらかが先に逝く。やがてくる老いに備え、夫婦間でも経済面や心の面での準備は不可欠だ。心構えや気をつけるべきことを聞いた。AERA 2023年6月5日号から。
* * *
今年49歳になる女性は、30年前の4月1日を忘れられない。両親の反対を押し切り、東京の大学へ進学。奈良県の実家を出た日、母親は泣いていた。
ひとり娘で、仲良し母娘。上京後、近所に住む叔母から聞いたところによると、母親はかなり落ち込んでいたが、友人の誘いでスポーツジムに入会。ジム仲間とお茶をしたり、観劇に出かけたりするようになった。
女性は大学卒業後、東京で就職。その頃から、母親は父親との旅行が増えた。「土日にお父さんとお遍路してる」と、土産をもらうこともあったそうだ。
現在72歳の母親は毎日ジム通い、75歳の父親はカラオケやパソコン教室で、2人とも忙しそうだ。「娘には頼れない」が口癖で、夫婦でハイキングや温泉旅行などを楽しんでいる。
女性にも娘がいる。巣立った後は、両親のような関係を夫と築きたいと思っている。
厚生労働省の人口動態統計特殊報告2022年度「離婚に関する統計」では、離婚した夫婦の同居期間が「20年以上」の割合は約70年間上昇傾向にあり、2020年では21.5%。「20年以上」とは、まさに熟年離婚だ。子どもがいる家庭なら、子育てがひと段落したタイミングと重なるかもしれない。
「人生は長い。子育てがひと段落したら、あえて離れて過ごす時間を作りませんか、と勧めることがあります。『半日婚』や『卒婚』と呼んだりもします」
こう言うのは、夫婦・カップル間のカウンセリングを主に行う公認心理師の潮英子さんだ。知人に、仲良し夫婦がいた。妻ががんで亡くなり、夫は周囲から励まされ続けたものの立ち直れず、うつ病になってしまった。
「必ずやどちらかが先に亡くなり、1人の生活になる。仲はそれほど、という夫婦でも、実は依存し合っていることは珍しくありません。老後1人になったときに備える必要があります」
■1人で生きていく術
自分だけの時間やスペースを持つ。可能であれば、経済も分ける。休日は朝昼は別々に、夕飯だけ一緒に。共通の趣味があるに越したことはないが、それとは別に自分だけが没頭できるものを見つける。そうすれば、新たな人間関係が構築される。