エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 入管法の改正案が、国会で可決されようとしています。これに対して反対の声が上がっています。もともと難民認定数が極めて少ない日本ですが、改正案の内容では、難民申請をする人の人権は守られません。働くことも健康保険に加入することも許されず、難民認定を日本の行政や司法から独立して公正に行う第三者機関はありません。認定するか否かは国の思惑次第です。戻れば殺されるかもしれないという人でも、あるいはすでに日本に生活基盤があって帰る場所がない人でも、有無を言わさず送還してしまうことが可能なのです。これでは国として「あなたは仲間ではないのでどうなっても知りません。死んでも構いません」と言っているのと同じことです。

 もしも自分が今いる場所で迫害され、信じて助けを求めて渡った国でそんな目に遭わされたらどうでしょうか。経済的自立も医療へのアクセスも叶わない状況で、どうやって生きていけというのでしょうか。これでは、もはや国家によるいじめです。

政府が提出した入管法改正案をめぐり、5月9日、立憲民主党など参院の野党4党が対案を提出した
政府が提出した入管法改正案をめぐり、5月9日、立憲民主党など参院の野党4党が対案を提出した

 全ての人の命は等しく扱われなければならないというのは国際的なルール。それを無視した法律がある国では誰も安心して暮らせません。今は仲間認定されている人も、政権の思惑次第で「お前は仲間じゃない」と言われるかもしれません。そうしたら、人権を蔑(ないがし)ろにされ、命を軽んじられるかもしれないのです。

 与党は、性的少数者に対する差別禁止に関しても、法案の「差別は許されない」を「不当な差別はあってはならない」という文言にしようとしています。何が「不当ではない差別」かを、国が決められる余地を残しておく表現です。通底しているのは、人の命の軽重を決める裁量を手にしていたいという意志です。日本ではかつて個人の命が国のものになり、戦争で数百万人が亡くなりました。それを忘れてはなりません。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年5月22日号