村上春樹presents山下洋輔トリオ再乱入ライブ
Original Vinyl Limited edition
村上春樹presents山下洋輔トリオ再乱入ライブ Original Vinyl Limited edition

――春樹さんのリスナーは10代の男の子もすごく多いです。

 とにかく新しい体験みたいなものをしてもらえばいいと思ってます。だからなるべく(音楽ストリーミングサービスの)Spotifyで検索できない音楽をかけるとかさ。ほとんど嫌がらせだけど(笑)。「これはSpotifyにありませんでした」という反応が来ると、なんか嬉しくて。

――先ほどの伝説のライブの模様を「村上RADIOレーベル」としてアナログレコード化されました。どんな方にこの演奏を届けたいですか。

 限られた数の聴衆を前にした一度限りのコンサートだったんだけど、実に充実した素晴らしい演奏だったので、少しでも多くの人に聴いてもらいたいと思います。「フリージャズ」っていうとなんだか難しく聞こえるけど、要するに「自由な音楽」のことです。狭いカテゴリーにこだわらず、もっと広い意味を持つ自然な音楽として聴いてほしいですね。時代やファッションを超えた音楽として。僕もライナーノーツを書いています。

――聴きどころをお願いします!

 山下さんの音楽の神髄はやはり自由さにあると思います。その自由さは高い壁を越え、時間を通り越していきます。だから聴き手もしっかり心を拡げて、ナチュラルに耳を澄ませることが何より大事になります。最近はみんな何でもすぐに批評する傾向があるみたいだけど、ちまちました批評なんか抜きにして、とにかく自由に音楽そのものを聴いてもらいたいですね。

――当日は若い現役学生世代も大興奮でした。若い世代へのメッセージがあればお願いします。

 若い人のことって、僕にはもうよくわからないです(笑)。だからっていうか、昔からほとんど自分のことしか考えてないんだけど、でも若いときに大事なのは、鮮やかな思い出を少しでもたくさん作っておくことですね。歳をとるとその思い出のストックが大事な燃料みたいになります。ソーシャル・メディアみたいなのも便利で有用だけど、五感をしっかりと使ったフィジカルな思い出作りも大切ですよね。そういうのって、意外にあとまで残るから。優れた生の音楽を聴くというのもとても大事なことだと思う。(構成 本誌・佐藤秀男)

村上春樹presents山下洋輔トリオ再乱入ライブ Original Vinyl Limited edition(村上春樹さんによる書き下ろしライナーノーツを含む16頁冊子・特別付録付き/シリアルナンバー入り / 重量盤 / 9000円+税別)TOKYO FM公式通販サイトで5月30日から予約開始。全国CDレコード店は7月以降発売予定

 週刊朝日と「村上朝日堂」 村上春樹さんが身辺雑記を赤裸々に綴った「村上朝日堂」は1985~86年と95~96年にかけて掲載された本誌の名物連載エッセー。挿絵はイラストレーターの安西水丸さん。安西さんが亡くなった2014年には村上さんが書き下ろした特別編が掲載され、1回限りの名コンビ復活が話題を呼んだ。

週刊朝日2023年6月9日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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