2024年米大統領選での再選に向け正式に出馬表明したバイデン大統領(80)は、高齢に対する懸念が根強い/4月25日、ワシントン(ZUMA Press アフロ)

 トランプ氏は裁判所で、34の罪状を全て否認。「違法なことは何もしていない!」と、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で主張した。彼が1日に数通発信する支持者向けメールも常に攻撃的だ。

「ブラッグ検事は急進左派で、起訴は魔女狩り」

「起訴は最初から死んだも同然だ。終わっている」

 実はこのメールの送信元は「第45代大統領ドナルド・トランプ」あるいは「トランプ・フォー・プレジデント(トランプを大統領に)」となっている。彼は今も現職で、再選を狙っているかのような印象を与える。

 記者の知人が、トランプ氏の起訴直後、こう聞いてきた。

「現職大統領を起訴することは、法的にできないのではないか。現職に罪を問うなら、連邦議会の弾劾(だんがい)裁判という形を取るのではないか」

 一瞬「もう現職ではないのだが」と戸惑ったが、実は、熱烈なトランプ支持者は現職だと信じている事実がかいまみえた。20年にジョー・バイデン候補(民主党)が大統領に当選した選挙は、支持者にとって「奪われた」ものという陰謀論が根強いためだ。

 支持者の一部である数千人が21年1月6日、首都ワシントンの連邦議会議事堂を、武器を持って襲撃するに及んだ。上下院議員の犠牲者は出なかったものの、建物が一部破壊され、支持者と警察の双方に死者が出た。民主主義プロセスの象徴である大統領選の結果を否定する陰謀論の怖さを象徴する事件だ。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2023年5月15日号より抜粋

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