「長期政権しか考えていない」(伊藤氏)首相にとり、24年9月の党総裁選は絶対に勝たなければならない戦いだ。国民の支持が回復しているうちに衆院選に打って出て勝利すれば、総裁選での再選につながっていく。
野党の状況を見ても、統一地方選で躍進した日本維新の会は衆院選の候補者擁立を急いでいるが、「早期に解散されたら全289小選挙区での擁立は間に合わず、立憲民主党とバーター、事実上のすみ分けを行わざるを得ない」(維新関係者)。立民も、選挙で結果が出せない泉健太代表のまま戦わざるを得なくなる。
早期解散の背中を押す主戦論者は茂木敏充幹事長、森山裕選挙対策委員長ら党幹部と岸田首相に近い小野寺五典元防衛相ら。自民党内の選挙区調整は山口、和歌山を残すのみで、いつでも選挙戦に打って出る態勢を整えているという。
早期解散は本当にあるのか。その決断を左右するのは、サミットの成否だ。岸田首相は「核による脅し」という禁じ手を使うロシアを強く牽制(けんせい)するため、G7として「絶対に核を使わせてはならない」と打ち出す一方、ウクライナ支援でのさらなる結束をアピールしようと意気込む。しかし、当初あてにしていたバイデン米大統領の長崎訪問は、日程上の関係でなくなってしまった。さらに、政府が借金できる上限額を巡って野党・共和党との対立が続く米政府は6月にも債務不履行(デフォルト)に陥りかねない状況で、バイデン大統領がG7サミットに出席できない可能性まで出てきた。
「各国首脳を引き連れての広島平和記念資料館訪問など、被爆地である広島出身の首相が指導力を発揮する演出にも徹底的にこだわる計画。しかし、肝心かなめの米国大統領が欠席するような事態になれば、場は白ける。首脳宣言を手堅くまとめ、メディアで連日大きく報じられて『大成功』という、したたかな計算も狂ってくる」(外務省幹部)
こうした状況の中で、首相が最も気に掛けていることが「ロシアによる核使用だ」(官邸幹部)という。